球音が帰ってきた―
2カ月延期となった開幕。待ちに待った野球。
「いつもの光景」
その日、球場に着くと久しぶりに見る光景が広がっていた。6月13日、三木防災公園野球場。キャッチボールの音、ノックの打球音、捕球音、そして選手の声が響く。準備のために慌ただしく球場外を走り回る選手やスタッフの姿も。
長らくSTAY HOMEしていた我々が聞くことができなかった音や見ることができなかったものが目の前に広がっていた。
30試合のうちの1試合といってしまえばそれまでだが、2020年初の公式戦。この試合は無観客試合ではあったが、選手の気合いの入り方も違う。
(試合前に素振りをする兵庫ブルーサンダーズの選手たち)
(ロングディーを行う堺シュライクスの選手たち)
兵庫ブルーサンダーズ・橋本大祐監督が「やっと始まる。全体練習がストップしている間でも選手がしっかり課題をもって取り組んでいたので、レベルアップしていた。若く楽しみな選手が多いのでリーグ優勝、そしてNPB指名される選手を育てたい」と話せば、
堺シュライクス・大西宏明監督は「本当に野球ができるか不安だったが、世の中が野球を求めていたのを実感していた。勝ち負けも大事だが暑い試合を見せたい」と語った。
(試合前に整列する兵庫ブルーサンダーズナイン)
(整列する堺シュライクスナイン)
(ホームプレートミーティングに臨む橋本監督と大西監督と審判団)
雨天の影響もあり、試合開始が10分前倒しされた。時折雨が強くなることもあったが、選手たちは溌溂としたプレーを見せていた。
(1回裏、盗塁を試みるもタッチアウトとなった兵庫・梶木翔馬)
(3回表、二塁打を放つ堺・佐藤将悟)
(6回裏、ホームインする兵庫・小山一樹)
試合はインターネットラジオ局「レディオバルーン」でインターネット配信された。
試合中には兵庫ブルーサンダーズ・清水健介投手がゲスト出演する一幕も。
(右手前が兵庫・清水健介)
試合は堺が1点リードしていた9回裏、兵庫が無死1、2塁のチャンスを作る。兵庫ベンチがにわかに盛り上がりを見せる。
(9回裏・仲瀬貴啓が野手選択で出塁し、盛り上がるベンチ)
しかし、堺のリリーフエース、河村将督が粘り、試合は2-1で堺が勝利した。
(9回裏、最後の打者を併殺で打ち取り、恒例のガッツポーズを見せる堺・河村将督)
こうして2カ月遅れの開幕戦は幕を閉じた。
開幕への思い・地域への思い
関係者に話を聞くと異口同音に「やっとこの日が来た」という。
兵庫ブルーサンダーズの川﨑大介球団社長は「練習ができない期間にも地域の方に助けていただき、手作りの打撃ケージを作っていただいたりした。それで寮生が練習することができた」と述懐した。その間も地域貢献活動の依頼が来るなど、地域とのつながりを改めて感じたという。
堺シュライクスの夏凪一仁球団代表は「不安はあるがグラウンドで選手が駆け回るのを見るとうれしい」と語った。「選手には試合ができなかった分、一瞬のプレーに全力を注いでほしい、目の前のことを全力でやってほしい」と語った。
この試合を観戦した仲木威雄リーグ代表は「プレーをしているところを見てよかった」と安堵した。
「この2カ月はどんなことを考え、どんな準備をしたか、野球やチームにしっかり向き合う時間になったと思う」
リーグが開幕できるよう情報収集を続け、感染症予防対策の大阪モデルを参考にし、開幕日を設定できた。
「このリーグには3つの理念を掲げています。そんな中で野球バカであってほしいし、『美意識』をもって取り組んでもらいたい。そして地域社会への関わりをしっかり持ってほしい」
(仲木威雄リーグ代表)
首脳陣だけではなく、兵庫ブルーサンダーズの運営スタッフも、この日を待ち望んでいた。
アナウンスを担当した中嶌杏里さんは「本当に待ち遠しかった。無観客試合でアナウンスを行ったけれど、インターネットで配信されていたこともあり、お客さまに声を届けられていることが心の支えになった。楽しんでもらえたらうれしい」と話した。
スタッフ、選手がそれぞれ思い思いにこの試合に関わり、開幕の晴れ舞台を作った。
今年日本の独立リーグでは2番目に開幕したさわかみ関西独立リーグ。完全に元の通りの形態になるにはもう少し時間がかかりそうだが、首脳陣、選手、スタッフが一丸となり、元に戻った時にはきっと熱い戦いを見せてくれることだろう。
(取材・文・写真 SAZZY)