さわかみ関西独立リーグ和歌山ファイティングバーズ 杉本大樹【side B】

新型コロナウイルスの影響で開幕延期―
前代未聞の事態に、今選手たちは何を思っているのか。
オンライン取材で今、過去、そして今後のことを聞いてみました。
第2回は和歌山ファイティングバーズの杉本投手をピックアップ!

 

苦すぎた初登板

2019年6月22日。堺シュライクス対和歌山ファイティングバーズの一戦。チームが同点に追いついた6回裏に出番は突然やってきた。住之江公園野球場で「杉本」の名前がアナウンスされた。まだチームのホームページにも名前が掲載されていない投手の登板。球場は騒然となった。

190センチの高身長が住之江公園野球場の独特な色味の照明に照らし出される。ユニフォームは間に合わず、入団予定だった外国人選手のもの。スタンドには香川から父親が観戦に訪れていた。

しかし辻田寛人に四球、鶴巻璃士の犠打の後、辰巳大晴にタイムリーを浴びた。そして中道勝士を敬遠。打席にはJ・J(ジュリアン・ジョンソン)を迎えた。

無心に投げ込んだストレートは、打った瞬間それとわかるホームランとなり、レフトの場外へ消えていった。

「こんな入団してすぐ投げられるとも思ってなかったんですが、やはり高校と大学の時ともレベルは違いました。外国人選手とも対戦したことはなかったですし、ストレートも自信があったんですが、あんな簡単に飛ばされてしまいました。まだまだ自分の力不足だなと思ったのと、球場の雰囲気も、早い段階で経験できたことはよかったのかなと思います」

杉本大樹の初登板は苦く、そして教訓として今も心の中で生き続けている経験となった。

 

(2019年6月22日、初登板のマウンドに立つ杉本)

 

 

まだ伸びる

「大学4年の春に神宮大会のメンバーにも入れなかったので、どうしようかと思っていました」

プロを多数輩出してきた日本文理大。その当時は投手専門の指導者もいなかった。6月、球団関係者の前でセレクションを受けた。結果は合格。晴れて和歌山ファイティングバーズの一員としてユニフォームに袖を通した。日本ハムファイターズでリリーフやクローザーとして活躍した川原昭二監督が率いるチームだ。

「川原さんに教えてもらいながら、今まで自分でも気づかなかった課題や考え方を知ることができました」

下半身の使い方、内転筋の使い方、力の入れどころ、上半身と下半身の連動方法を一から教わった。意識をして練習に取り組んだら遠投の距離が伸び始めた。そこから球速が伸びてきた。今年に入ってから取り組んだ課題が目に見えて実感として見えてきた。

「今年から入団してではなく、去年から取り組み始めてできてよかったと思います。川原監督からは『もっとうまく(下半身を)使えるようになったら、球速があと5キロは軽く伸びるぞ!』と言われています」

フォームも変わり、自信のあったストレートはシーズン中、少し球速が落ちてきていたそうだが、今年に入り、コンスタントに強いボールが投げられるようになってきた。昨年からの積み重ねがようやく花開こうとしている。

 

 

監督直伝のトレーニング法

現在和歌山ファイティングバーズの練習は、少人数で集まって行うこともあるが、個人での練習が占める割合が高い。それでも練習量を落とさないように工夫をしている。

「ランニングと腹筋。寮にバーベルとシャフトとがあるのでジムに行けないぶんウエイトトレをしています。あとシャドウピッチングは1日絶対50回やろうと決めています」

それだけでも普通にしんどそうだが、それに加えて、あるトレーニング方法を取り入れている。

「なわとび1000回ですね。200回を5セットみたいな感じでやっています。監督が現役時代に夜中にやっていたと聞いたので、マネをしてみようと思い始めました」

なわとび1000回。なんだか簡単そうにも見えてしまうが、試しにやってみたところ、跳び続けるだけでもなかなかにつらい。それを毎日続けてこそ、川原監督のような成績も残せるものなのだろう。

※1983年、ファイターズに所属していた川原監督はリーグトップの59試合に登板。うち先発が2試合ながらもチームトップの145回2/3イニングを投げ、同じくチームトップの11勝を記録。翌年には14セーブを挙げるなど、89年の引退までファイターズのブルペンを支え続けた。

 

 

今季の目標と決意

 

「まだ先発するか抑えをするかというのは言われてないんですけど、どこでも投げても抑えられるようにしたいです。先発なら最優秀防御率と最多勝、奪三振のタイトルは取りたいと思ってやっています」

そのためにはまだスピードやキレ、コントロールを2段階は上げないといけない。見据えるのはNPBからのドラフト指名だ。

「いつ開幕してもいいように今を大事にしないといけないと思います。去年より今年のほうが田辺の人に応援されたり、声をかけられることも増えてきました。田辺の人たちは温かいので、元気を与えられるように頑張りたい。そのために優勝して・・・田辺で優勝決定戦とかやったら盛り上がると思いますし、応援してもらえるようにやっていきたいです」

取材中、杉本の後ろに「頂」と書かれた書物があった。これは小学生のころ自分で書いたものを今も部屋に飾っているものだ。チームとしても、個人としても頂を目指し、開幕に、シーズンに備えていく。

 

(リモート取材中の一幕)

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杉本投手が選ぶ さわかみ関西独立リーグ この選手がすごい!

松本昌大(和歌山)・・・どこに投げてもストライクゾーンに入れば芯に当てて打たれた。今年は味方なので頼もしい
草間サトル(06)・・・打者に向かっていく気持ち・姿勢・闘争心がすごい

杉本大樹投手プロフィール

1997年4月24日生まれ 右投げ右打ち

寒川高―日本文理大―和歌山ファイティングバーズ

2019年成績 4試合 0勝1敗0S 防御率36.00

(文・写真 SAZZY)