2020年8月22日 リーグ史上初ノーヒットノーラン 河内山拓樹投手

暑く熱い試合の幕開け

南港中央公園野球場。夏の暑い日差しと蒸し暑さ。時折聞こえる蝉の声。雷予報などもあり、客席はまばら。そんな球場のマウンドに立ったのが、河内山拓樹。

 

クラブチーム、社会人野球チームを経て、トラベリングチーム・アジアンブリーズに参戦。海外でのプレーが決まっていたが、コロナウィルスの影響でリーグの開催が延期。そのため渡航を断念し、堺シュライクスに所属することになった。

 

笑顔が印象的な選手だが、マウンドに立つと表情は一変。MAX146キロのストレートとスライダーで凡打の山を築く。ここまでリーグ最多の2Sを挙げている。先発としてはこの日が2試合目の登板だった。

あれ?と思わない間に

初回、打席に入ったのは兵庫ブルーサンダーズの俊足、吉村尚馬。前回8月19日の試合では河内山からヒットを打っているがセンターフライ。続く西優輝もセンターフライ、梶木翔馬はピッチャーゴロに打ち取った。

 

その裏、堺シュライクスは怒涛の攻撃を見せた。注目の右腕、落合秀市投手を相手に大神康輔が四球を選ぶとすかさず盗塁。試合後大西監督は「しっかり試合に向けて準備した大神のプレーが大きかった」と褒めたプレーだった。

4番の大橋諒介がタイムリー、暴投や山田偉琉のタイムリーで、この回一挙5点を先取した。

 

2回、4番の蔡鉦宇。ファウルにはなるが鋭い当たりを連発される。3回には濱田勇志に死球を与えるが、続く吉村をしっかりファーストゴロに打ち取ってチェンジ。この段階では「ひとまず1巡目を抑えた」というような感じだった。

 

4回から5回にかけて、球威が増した。打球が詰まり、引っ張られる打球が極端に減ってきた。さらに三振も増えていった。

 

5回を終わってノーヒット。「あれ?まだブルサンヒット無いよな…?」という空気はスタンドにはなかった。南港中央公園野球場はヒット、エラーの表示がスコアボードにないからだ。この時点でスタンドの何人かに話を聞いたが、ノーヒット継続に気づいていない人ばかりだった。

 

6回も抑え、7回には三振と詰まったセカンドゴロ2つ。このあたりから堺の控え投手たちがざわざわし始めた。8回も抑えた。残るは9回のみ。

(8回2死。他の投手陣がそわそわしながらほぼ全員集合。河内山本人は普段通りにキャッチボール)

 

9回の先頭打者は、兵庫に入団したばかりの嵩原陽捕手。アジアンブリーズでのチームメイトだった。ファウルでカウントを取った後に、空振り三振。続く濱田も見逃し三振。1球1球がストライクゾーンにビシビシ決まり、球威が増しているようにも思えた。

(カメラマン席で待機していた投手陣と安積拓人捕手と球団スタッフ畑さん。ここまで前のめりに試合を見る光景はほとんど見ない)

 

9回二死。代打に告げられたのは、19日の試合で代打で2点タイムリーを放っている渡邉優瑠。最後に投げたボールは河内山本人が一番こだわっているストレートだった。球審の山田幸英が胸の前で手を引いた。三者連続三振でこの試合を締めた。結局出塁を許したのは3回の死球のみ。リーグ史上初のノーヒットノーラン達成だった。

(9回1死から急遽作られたというノーヒットノーラン達成の球場ビジョン)

 

本人の振り返り

「キャッチボールの時に掴んだ感覚があって、4回ぐらいからそれがハマってきて、だんだん相手打者を刺せるようになってきたので、いいボールになってきたなと感じました」

河内山本人は3回まではあまりいい感覚はなく、だんだん良くなってきたというようだった。

 

「後ろにもいいピッチャーがいっぱいいるので、初回から全力でいけますし、守備のレベルも高いので、大胆に行けたのがいい結果につながったと思います」

この試合、鶴巻璃士がファウルフライを好捕したり、ボテボテのセカンドゴロを大橋諒介がうまく捌いたりするなど、守備にもいいシーンが見られた。

 

「目先の試合の結果ではなく、長い目で見て、トータルで見て成長できるように取り組んでいるので、それが(ノーヒットノーランという)いい形で出たのかなと思います」と振り返った。

(キャッチャーの山田捕手と。ちなみにボールを持っているが、山田がノーヒットノーランに慣れていなかったため、審判に達成球を渡してしまう。さらに球審の山田審判もノーヒットノーランに気づいておらず、ボールは行方不明に。「多分これ」ということで近くから持ってきたボール)

 

必然のノーヒットノーラン

試合後、首脳陣から、口を揃えて出てきた話がある。

「河内山は日々の練習の取り組み方が素晴らしい」

 

 

「一人でも黙々と自分のやるべきことをしっかりやっている。それが出たんだろうなと思う」とは夏凪球団代表。「普段からの姿勢、練習に取り組む姿勢が、全然他とは違う。それが素晴らしい」と称えた。

 

大西宏明監督は 「もちろんノーヒットノーラン自体はすごいことだけれど、そんなにビックリはしないかもしれない。ピッチング云々というより日々からの取り組みが素晴らしいし、彼の努力の賜物。偶然じゃなくて必然のノーヒットノーランかな」と振り返った。

 

投手をまとめる藤江均コーチは「偶然ではできない。日々見ていてもしっかりしている。普段の考え方や練習にも『こういう風になりたい、こんなボールを投げたい』という一つ一つ意図を感じる。その積み重ねの結果のノーヒットノーランですね」と、うれしそうに語った。

 

その取り組み方については大西監督が試合後のミーティングで他の選手すべてに伝えたことがある。

 

「河内山は自分のやるべきことも、足らないことも分かっているし、いいところも分かっている。それを補ったり高めたりする練習ができている。独立リーグとなると少し能力的に足りない選手が多い中で、人に流されず、自分の事をやる。それが明確に見えている」

(試合後のミーティング)

 

そしてこのノーヒットノーランで、もう一つ大事なことがあった。この試合、登板する予定の投手が他にいたのだ。大西監督と藤江コーチはこう振り返った。

 

「プランとして片岡(篤志)を投げさせようとしたけれど、藤江と6、7、8回を(河内山が)抑えたらどうする?って話をしていて」(大西監督)

「独立リーグって公式戦は大事だけれども、育成の場でもあるなとは思っていて。結果に関わらず片岡を投げさせようと思ったけれど、自分も投手出身だけど、(ノーヒットノーランは)なかなか挑戦する機会もなかったし、回を追うごとにやらせてあげようと思ってきた」(藤江コーチ)

 

もちろんこれが河内山でなければひょっとしたら別の結果になっていたかもしれない。藤江コーチはこう付け加えた。

 

「ノーヒットノーランがゴールではないということを河内山はわかっているし、この結果の中でも反省点は持っていると思う。投げられなかった投手は悔しさを持ってほしい。チームとしては喜ぶべきことだけれども、自分のいるべきマウンドに上がることができないのだから。ただ喜んでいるようじゃプレイヤーとしてはそこで終わってしまう」

 

この日、スカウトがいる中で、登板に備えていた片岡は河内山に「人のアピールの機会をどうしてくれるんですか」と笑顔交じりで話していた。悔しさ半分、チームとしてのうれしさ半分のようだった。

(試合後の練習中に豪雨が降り、登板できなかった悲しみを表す片岡投手(右))

 

リリーフエースの河村将督は「チームとしてはうれしいですよ。でもやっぱり試合数がコロナで少なくなった中で、自分の登板機会がなくなったのは悔しいですね」と話した。

 

そして、近々先発の予定がある糟谷颯は「河内山さんがノーノ―なら、俺は完全試合やってやります!」と意気込んでいた。

 

野手も刺激を受けていた。大橋はこの試合、1安打1打点「しか」打てなかったことに意気消沈し、試合後の練習では立てなくなるぐらいの打ち込みを行っていた。

(足の自由が利かないのか、匍匐前進でボールを拾っていた大橋)

 

そのほかの選手も、課題を見つめ、レベルアップをしようと短い時間ではあったが投げ込み、打ち込み、ノックなどを行っていた。

 

河内山拓樹という男

7月25日、入団後初セーブを挙げた際にこう言っていた。

「ストレートをよくしたいと思っていて、150キロを投げられるようになりたい。NPBに行ける行けないとかではなく、成長したい」

 

球速にこだわり、もちろんそれ以外の要素もあるが、目先ではなく、長いスパンで自分を成長させたいと思いながら取り組んでいる。一方で藤江コーチが「何も言わなくてもしっかりやってくれる」という通り、練習では糟谷や関口聡など、河内山を慕って行動を共にする選手が増えてきている。

 

堺に16歳の佐々木裕也投手が入団した時には、「河内山をしっかり見ておけ」というほど、藤江コーチの信頼も厚い。

 

ノーヒットノーランについて振り返った後、河内山はこう言った。

 

「いい状態に、いいボールを投げられるようになってきていると思うので、この調子を継続できるよう、また明日から練習を頑張ります」

 

そう言い終わった後、着替えてすぐにグラウンドに飛び出し、ピッチングフォームの確認と、壁に向けてボールを投げ始めた。1球1球丁寧に、掴んだ感覚を忘れないように。

(試合後の練習で投げる河内山)

 

「今日何キロ出てました?」帰る前に聞かれた。MAX143キロだったことを伝えると、「まだまだだなぁ…」と言いながら苦笑いした。25歳。まだ成長途中だ。練習も、試合での経験も、まだまだ取り込んで、河内山は進化していく。